内容 |
ピロリ菌と胃癌の関係 ピロリ菌(Helicobacter pylori)は、胃の粘膜に生息する細菌で、慢性的な胃炎や胃・十二指腸潰瘍の主な原因として知られています。また、このピロリ菌は胃癌の発生に深く関与していることが明らかになっています。 ピロリ菌は長期間にわたり胃の粘膜に炎症を引き起こし、「慢性胃炎→萎縮性胃炎→腸上皮化生→胃癌」という進行の流れを通じて、胃癌のリスクを高めます。 日本では胃癌の約90%以上がピロリ菌感染と関連しているとされており、ピロリ菌の除菌治療によって胃癌の発症リスクを大きく下げることができることが多数の研究で証明されています。ピロリ菌が陽性と診断された場合には、保険適用のもと除菌治療が行われます。除菌後も定期的な上部消化管内視鏡検査によるフォローアップが重要です。

 上部消化管内視鏡検査 上部消化管内視鏡検査は、胃の炎症、ポリープ、潰瘍、腫瘍性病変などの評価に不可欠な検査です。当院では、患者さまの希望や状態に応じて経鼻または経口の挿入ルートを選択できる体制を整えており、苦痛の少ない検査を目指して鎮静下での施行も可能としています。 とくに胃癌の早期発見においては、通常の白色光観察に加え、狭帯域光(NBI)拡大内視鏡観察や色素内視鏡観察(インジゴカルミンなどを用いた染色)が極めて有効です。NBIは微小血管構築像や粘膜表面の微細構造を強調して観察できる特殊光観察技術であり、色素内視鏡は病変の輪郭を明瞭にすることで病変の広がりや質的診断を助けます。当院ではこれらの観察技術を日常的に導入しており、微細な病変の検出や鑑別診断の精度向上に努めています。2024年度の当院における上部消化管内視鏡検査は7545件にのぼります。
 胃内視鏡治療 早期胃癌に対しては、開腹や腹腔鏡を用いた外科手術だけでなく、内視鏡による切除(内視鏡治療)が大きな選択肢となっています。特に、ESD(Endoscopic Submucosal Dissection:内視鏡的粘膜下層剥離術)は、近年日本で広く普及している高度な内視鏡技術です。 ESDの対象となるのは主に、リンパ節転移のリスクが極めて低いと判断された早期胃癌です。ESDは病変を周囲の正常粘膜ごと一括で切除する技術であり、取り残しのない確実な治療と、切除標本に基づく正確な病理診断を同時に可能とします。体への負担が少なく、術後の回復も早いことから、患者にとって大きな利点があります。 当院では、経験豊富な内視鏡専門医が複数人在籍しており、ESDを含む高度な内視鏡治療を日常的に実施しています。最新の内視鏡機器と、患者さんに配慮した麻酔管理のもと、安全で確実な治療を提供しています。2024年度は当院にて102件の胃ESDを施行致しました。治療後は病理診断の結果に基づいて、追加治療の必要性や今後の経過観察方針を丁寧にご説明いたします。

 胃の健康を守るために ピロリ菌感染の有無を調べ、必要に応じて除菌を行うこと、そして定期的な上部消化管内視鏡検査による早期発見・早期治療が、胃癌の予防と早期治療の鍵となります。ご自身の健康管理の一環として、ぜひ一度当院での検査をご検討ください。

小腸の内視鏡検査について 小腸は、口や肛門から離れており、また5-6mと非常に長い臓器であることから、内視鏡での観察や治療が困難でした。しかし、ダブルバルーン内視鏡(Double-balloon endoscopy: DBE)とカプセル内視鏡(Capsule endoscopy: CE)を用いることで患者様の苦痛や負担が少なく観察や治療が可能となってきており当院でも導入しています。
【ダブルバルーン内視鏡】
.jpg) ダブルバルーン内視鏡(DBE)は内視鏡と外側に装着するオーバーチューブの両方に2つの風船(バルーン)が付いており、バルーンを拡張することによって腸管を固定し、交互に挿入と短縮を繰り返し、尺取り虫のように内視鏡を奥に進めることが可能で全長5-6mの長い小腸を観察することができます。また、内視鏡から道具を出して、小腸にある病変でも、止血処置を行ったりポリープを切除したりすることも可能です。 また、胃、膵臓の外科手術後の患者さんにおいても、総胆管結石、肝内結石が発生した場合、DBEを用いて内視鏡処置が可能となってきており、当院では2020年以降においても約130件施行しており、高い処置率を達成しています。
【カプセル内視鏡】
.jpg) カプセル内視鏡(CE)はイスラエルのGiven imaging社によって開発された検査法で、そのシステムは画像を撮影するカプセルと撮影した画像情報を受信するセンサーと画像を蓄積するデータレコーダーと画像を解析するワークステーションから成っています。カプセル本体を被検者に飲み込んでもらい腸管の蠕動運動を利用して前進します。レコーダー内のバッテリーは10時間で、この時間が検査時間となります。画像の解析は検査終了後にコンピューター上で再生して行うこととなります。生検や処置などは不可能です。
 DBE、CEはそれぞれ特徴があり、どちらの検査をどのような時に使用するかは議論の余地がありますが、病変検出率に有意な差はありませんので、検査の負担・苦痛を考えて、まずCEで病変を見つけてDBEで精密検査・処置を行うのが一般的です。
大腸の内視鏡検査/治療 大腸内視鏡検査 大腸内視鏡検査は, 大腸がん,ポリープ, 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎/クローン病)を直接観察・診断することが可能な最も信頼性の高い検査法です。大腸癌は, 近年増加傾向にあり, 早期発見・早期治療が極めて重要です。当院では, 色素散布やNBIによる拡大内視鏡検査により早期癌の発見も積極的に行っております。便潜血陽性と指摘された方や下血・腹痛・便通異常などの症状がある方, また大腸癌の家族歴がある方には積極的に検査をおすすめしております。当院では鎮静剤を使用することで苦痛を最小限に抑えて安全な検査を提供しております。
大腸内視鏡治療(大腸ポリープ切除/早期癌に対する内視鏡治療) 内視鏡検査でポリープや早期大腸癌を発見された場合, 内視鏡治療が必要となります。 特に大腸ポリープの多くは癌化する可能性があるため早期発見早期切除が非常に重要です。 大腸ポリープや早期大腸癌に対する内視鏡治療法として内視鏡的粘膜切除術や内視鏡的粘膜下層剥離術があります。内視鏡的治療下層剥離術では, 粘膜下層にヒアルロン酸や生理食塩水を注入し癌を浮き上がらせ, 周辺を切開します。切開した部位から粘膜下層を剥離していき病変全体を切除します。切除した病変の病理診断で,内視鏡治療だけで治癒切除であったかどうかの判定を行い病理診断の結果によっては追加外科治療が必要になる場合もあります。この内視鏡的粘膜下層剥離術は高度な技術を要する治療ですが, 当院では積極的に行っております。
大腸ステント留置術 進行した大腸癌などが原因で大腸閉塞をきたした場合, ステント(金属の筒状の器具)を内視鏡で挿入することにより,狭くなった腸管を広げて通過を改善する治療を行っています。 この治療による緊急の開腹手術を避けることが可能となり, 患者様の体力を温存した上で計画的な外科手術や化学療法へとつなげることができます。
その他,消化管出血に対する内視鏡的止血術, 術後の消化管狭窄に対するバルーン拡張, 誤嚥, 誤飲時の異物除去, 腸閉塞に対するイレウス管挿入などについても24時間体制で対応しております。
 |